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「雑誌記者 向田邦子」

c0135618_1201996.jpg 向田邦子に関する本はもう出尽くしたといった感がありますが、そのほとんどが彼女の生前の「鮮やかな」印象、懐かしい思い出、彼女がどんなに素敵な人だったかを紹介したものだったりします(まあ、最近明らかにされた「恋人」の存在について書かれたものはありましたが)。
 そうやって人は「伝説」になっていくのだなあと思います。しかし人間、誰しもかっこいいところばかり見せて生きていくことはできません。どうしようもなくみっともないところもあったり、時にはエゴイスティックな部分を露呈させてしまったり、過去にさかのぼって消しゴムで消してしまいたいと思うような失敗も、人は必ずもっているものです。向田邦子だって例外ではないはずですが、それはあまり語られることはありません。
 まあ、かっこいいだけじゃなく、ダメなところもみっともないところも全部ひっくるめて「人間」という動物の魅力、なのかもしれないのですがね。「伝説」には必要ないことなのかもしれません。

 この本は、上野たま子さんという映画評論家の方が、「映画ストーリー」という雑誌記者時代に同僚だった向田邦子との思い出を語った一冊です。
 向田邦子の本を隅から隅まで読んでいる方ならおわかりだと思いますが、ジャン・マレエとエレベータで一緒になった話、渋谷の飲み屋の「ご不浄」にバッグを落としてしまった話(まだポットン式の時代です)などが、同じ現場に居合わせた著者の視線で書かれていて、またひと味違った印象で、とても興味深く読むことができます。
 また、著者は向田邦子の「恋人」とされる男性とも会っていて、そのときのエピソード、いま思えばこのような人(カメラマン、そしてどうも不倫だったらしい)と付き合っていたのが垣間見える彼女の振る舞いを紹介したり、向田邦子という「人間」を、よりリアルに知ることができる内容です。

 それよりもなによりも、著者は、「同僚」でもあり「ライバル」でもあり「親友」でもある向田邦子の、きらめくばかりの才能を認めながら、時として「嫉妬」の視線を送っていたことを正直に告白していて、そして少々演技がかった彼女の行動を醒めた視線で見つめていたりして、新しい向田像が浮き彫りになり、なかなか読み応えがあります。
 確かに、文章を書かせれば誰よりも上手に書き、美しく、華やかな雰囲気で誰からも好かれる同僚がいたら、いくら仲がよかったとしても「ちょっと面白くない」という気持ちは、誰でも持つに違いないと思います。そしてちょっとした失敗をしたら「そらみたことか」と心のどこかで思ってしまうのは「普通」だと言ってもさしつかえないと思います。いや、核の部分は「尊敬している親友」だとしても、です。

 だから、今回の本(実はこの本、新刊ではありますが、以前に絶版になった本のリメイクだそうで、全然知りませんでした)を読んで、向田邦子という人がより身近に感じられ、語り草になった「陰の恋」についても、いろいろなエピソードを新たに知ることで、「なるほどねー。こういう人はこういう恋をするのだな」と勝手に納得したりもしたのでした。「向田研究家」必読の一冊といえるでしょう。

 なんだか今年は世田谷文学館の「向田邦子展」を観たり、文庫を新たに買って読み込んだりして、向田邦子再発見、の一年でした。やっぱりいいものはいい。何度読んでも、そのときそのときで感じ方が変わるのがいいねーと思う年の瀬でした。
 

 
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by yochy-1962 | 2007-12-22 02:32 | 文学・芸術 | Trackback | Comments(8)
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Commented by babamaru at 2007-12-22 12:57
今でも思い出せますよ。彼女の乗った飛行機が落ちた時のニュースを。
「乗客者名簿にK.ムコウダとあります。」
それがこの向田邦子さんだなんて、結びつかなくてただ1つのニュースとして聞いていました。それからしばらくしてK.ムコウダが彼女だったとわかったときのあのショック!
世間に名が知れている方で、特別な思い入れをもつ人は少ないですが、かつて亡くなった方では、夏目雅子さんと向田邦子さんは今でも生きていてほしかった方々です。
この本、ワタシも知りませんでした。ぜひ読んでみたいです。
Commented by tohko_h at 2007-12-25 03:39
私も書店で気になってて…個人的に、妹さんの著書は全て
「伝説」には蛇足だなーと思ってスルーしてきたのですが、
同僚ゆえの嫉妬やなんかも込みで、というのが面白そうで。
編集者の端くれとしても気になる1冊。正月本候補か?
Commented by chako-05 at 2007-12-25 20:15
私も向田さん関連の作品はほとんど読んだと思ったのに、
初めて知りました。ご紹介ありがとうございました。
一人の女性としてものすごく尊敬しています。
Commented by yochy-1962 at 2007-12-27 03:17
babamaruさま オレもリアルに思い出されます。ウチの母親が向田ファンで、ニュースを見て「阿修羅のごとく」「蛇蝎のごとく」の人よ! とぶちぶち言っていたのを思い出します。
Commented by yochy-1962 at 2007-12-27 03:19
tohkoさま ちょっと新しい向田像、というか、自分の同僚にああいう人がいたらどういう気持ちになったんだろうと思わせる、いわば向田邦子が自分の近くに下りて来たと思わせる一冊でした。正月とはいわず、すぐにでも、。面白くてあっという間に読めちゃいますよ。
Commented by yochy-1962 at 2007-12-27 03:21
chakoさま 女性として尊敬しているのなら、もしかしたら読まないほうがいいかも?
向田邦子も「聖人」ではなく、ちょっと生意気で、同性から見たら反感を買うようなこともしていた、ということが書かれています。
でも、私は読んでよかったと思っています。とても親近感がわきました。
Commented by chako-05 at 2007-12-27 13:37
いや、尊敬という言葉は違ったかもしれません。
彼女の人間らしいところ、
好きなものは好き、やりたいことはとことんやる、
そんな生き方が好きなんです。
彼女の作品から、人と人とのドロドロや、大人というものを知りました。
才能あふれるままあっけなく他界してしまった。
そんな人生も羨ましいです。
Commented by yochy-1962 at 2007-12-29 07:36
chakoさま そうですね。人間みんなドロドロとしてところも持っているし、とてもエゴイスティックな存在ではあるのですが、それを全部「愛おしい」ところに変換してしまうところが、彼女のすごさだと思っています。
あっけなく他界するのもうらやましい感じがしますが、人間、長生きしたほうが勝ちですよ。しぶとく生きましょう!