還暦前の「あなた」

少年少女の頃の夢や憧れを大切にし、ずっと心に持ち続けることは素敵なことだと思いますが、だからと言ってなにもせずにただそれに固執し続けるのは、そういう方は、申し訳ないのですが痛々しい、あるいはホントに真剣に夢に対峙していないのでは、などと思ってしまいます。
そう、夢は進化するもの。夢に向かって真剣に歩いていたのなら、きっとその夢は、上を向いたり後ろを振り返ったり、転んだり雨に打たれたりしていくうちに少しずつ姿を変え、新しい夢へと導いてくれるはずなのです。
それが「夢の進化」だと思うのです。決して堕落ではありません。だから、大河に押し戻される人生も、きっと幸せな、実り豊かな人生。そう思って残りの時間を過ごしていこうと思うのです。
少女の淡い、儚い夢を歌った、昭和を代表するヒット曲の「あなた」。「僕らのポプコンエイジコンサート」で、還暦前の小坂明子さんが登場し、この歌をピアノの弾き語りで披露してくださいました。
あの、透き通るような美しい少女の熱唱はさすがに望めませんでしたが、ちょっと力を抜いたような、しみじみとした感じで歌う姿に、いろいろな思いが押し寄せてきました。
まるで、昔見ていて、いまはくちゃくちゃになってどこに行ったのかも分からなくなった自分の夢を久しぶりに見つけ、懐かしい思いで手に取っているかのようでした。多くの観客も、自分が大切にしていた夢とだぶらせ、さまざまな思いを持って時間を共有しているかのようでした。とても素晴らしかったです。
私ももちろん同じ。そして、そういう心持ちでいられることを幸せに感じるべきだと、つくづく思ったのでした。
この曲を歌った小坂明子さんにとって、歌の中に出てくる少女のどのくらいが自分自身なのかは知りませんが、その後の小坂さんの夢はいかがだったのでしょうか。
「あなた」を超える曲を作りたい、と思いながら歌い続けてきたのだが、なかなかそれは実現できなかった、とご本人はおっしゃいました。
その後の作曲家としての活躍は有名ですが、数年前に、インストゥルメンタルのアルバムを発表したところ、それがヨーロッパの国のiTunesチャート、イージーリスリング部門で1位になったのだとか。
「でも、その中でも一番売れたのは『あなた』だったの」
そんなエピソードを聞かせてくれましたが、それだけ「あなた」は偉大なる曲なのでしょう。
もしかしたら、小坂さんにとっては、これ以上のものを作らなくてはというプレッシャーが常に付きまとう曲になってしまったのかもしれません。しかし、いまこうして、還暦前になってこの歌を情感たっぷりに歌う彼女はとても素敵だと思いました。
それにしても、今回登場した谷山浩子さんも、渡辺真知子さんも、揃って今年還暦。ああ、時の流れよ、て感じです。しかしそれは私も同じ。すでにカウントダウンが始まっています(苦笑)。まあ、とにかく健康で迎えられることが目標ですね、飲み過ぎ厳禁。