ブログトップ

編集王子

newyochy.exblog.jp

Thank you !!!

コトバとオンガクのであい

c0135618_17232531.jpg それはもう昔のこと。
 どうしようもない、アル中寸前の中年が、まだ「青年」と呼ばれていたころの話です。
 あっ、青年という言葉の前に、「美」という字を付け加えていただいても構わない……なんて、茶化すことぐらいしかできない、まったく情けないおっさんに成り下がってしまった中年が、まだ青臭い理想に燃えていたころです。

 青年は、「児童文学」というものに情熱を傾け、三流、いや四流の児童書出版社で編集者という名の「なんでも屋」を生業としておりました。
 そして、四流のくせに昨今の児童ものの現状に憂い、あっちこっちで持論をぶちまけ、ジャックナイフのように人々を傷つけ、場末の酒場で酒をあおり、そこにピアノなんかが置いてあると、お調子者の血が騒ぎピアノの弾き語りなんかしてしまい(原田真二とか稲垣潤一とか谷山浩子とか。汗)、その後3日間は自己嫌悪から立ち直れない、という繰り返しの生活をしておりました。

 あまりのことに、天使のようなイラストレーターが青年に、「もしよかったら、ファンタジーを書いてみない?」と声をかけてくれたのでした。
 なんでも、青年の故郷である地の新聞社が、6か月連載で全面広告を掲載するのだが、それを夢のある文章、イラストで構成してみたい、そのイラストをイラストレーターが依頼され、文章も一任、誰か書ける人を捜してください、ということになったのです。

 この、身に余る光栄に青年は3日間踊り続け(ウソ)、せめて自身に流れる汚れ切った血液を浄化せねばと酒を断ち(ウソ)、滝に打たれ(ウソ)、精一杯の力を込めて、6か月連載のファンタジーを書き切ったのでした。
 それは、ある満月の夜、流れ星のかけらを拾った主人公が、それを天空に届けもう一度流す、というお話。
 文章量の制限があったり、大満足、という出来ではなかったのですが、それでも、イラストレーターの渾身の力を込めたイラストが素晴らしく、評判は上々でした。

 そうこうするうちに、この広告を見た一流出版社の編集者が、ぜひこれを単行本にしたい、という「おいおい、ドッキリかよ」という話を持ちかけて来たのでした。
 青年は再び3日間踊り続け(ウソ)、仕事そっちのけで(こ、これはホントだったかも)文章を全部書き換え、6場面の構成から出版用に15場面の話に作り替えました。
 それは、流れ星のかけらを拾い、「流れ星製造工場」へと空を泳ぐ魚に乗って向かい、さまざまな困難を経て流れ星を修復し、再び空へと流す……。「月夜のかえりみち」というタイトルで、一冊の絵本が出来上がったのでした。

 「月夜のかえりみち」は、文章はともかく、敢えてモノクロで描いたイラストが素晴らしく、各方面で大(小、ぐらいかな)絶賛。NHK「母と子のテレビ絵本」で採用されたり、読書感想画コンクールの課題図書に選ばれたりと、絵本としては結構な売れ行きを示し、青年は「この世の春」を十分満喫していたのでした。

 しかしその後、青年は再び世間の荒波にのまれ、安酒に走り、口を開けば毒しか出てこず、書く文章はおちゃらけという三文ライターの道をよろよろと歩き、再びファンタジー作品を書いてみても誰も相手にしてくれなくなりました。まあ自業自得。きれいな星空を見たとしても、己の眼が曇っていては、それを綺麗だと思う力もないのは当然のことかもしれません。

 そんな荒み切った青年(すでに中年)のもとに、交野演奏家クラブ「音夢(ねむ)の会」というところから、音楽の花束コンサート「コトバとオンガクのであい」というCDが届けられたのでした。
 実は10年ほど前、このクラブが「月夜のかえりみち」の文章を、オリジナル音楽に乗せて朗読する、という、勿体ない、素晴らしいことをしてくれまして、その再演が昨年行われたのでした。
 柔らかな、優しい音楽とともに、暖かなオーボエの音色が乗り、「それは もう昔のこと。いまよりも、夜がずっと暗かったころの お話だ……」という朗読が始まります。
 中年は、その時点でもうノックアウト。涙が、鼻水が止まりません。昔を思い出し、ああ、こんなことやってちゃいけないな、もう一度、あのころの情熱を取り戻そう、そのためには心を浄化させなければいけないな、と決意を新たにするのです。

 10年前に聞かせていただいたときより、音楽も、朗読も、ずっと上達されたような感じ(朗読のイントネーションが、若干関西弁なのはご愛嬌)で、心地よく、美しい音楽が心の中に、体の中に入ってきました。
 とても素晴らしかったと中年はハンカチを握りしめ、「うーん、でもこの文章は、女性に朗読してもらうよりは、どちらかというと男性、それもオレみたいな澄んだ声の持ち主がしたほうがぴったりだと思うんだけどな。よし、じゃあ次の再演はオレが、って立候補しちゃおうかな」と、結局邪悪な神経は相変わらずのまま、ビール、もとい発泡酒をぐびりぐびりとやっているところなのであります。

 とにかく、ありがとうございました。「月夜のかえりみち」はもうすでに絶版で、忘れられてしまった存在ではありますが、こうして美しく息を吹き返していただき、感謝、の一言に尽きるのであります。

 次回の再演のときにこそ、こっそりコンサートに伺おうかなと中年は考えているようです。
 しかし、そのときは中年が「老年」になってしまっている恐れも、あったりします(苦笑)。
 
[PR]
by yochy-1962 | 2011-06-16 18:59 | 音楽 | Trackback | Comments(6)
トラックバックURL : https://newyochy.exblog.jp/tb/16477914
トラックバックする(会員専用) [ヘルプ]
※このブログはトラックバック承認制を適用しています。 ブログの持ち主が承認するまでトラックバックは表示されません。
Commented by のり☆ at 2011-06-16 21:05 x
えーっ!?(@_@)この表紙(←ここポイント)見覚えあるー!!

そうなんだぁ。全く知りませんでした‥ていうか、想像すら出来ませんでしたw
Commented by yochy-1962 at 2011-06-16 23:47
のりさま ああ、ウラちゃんとこで表紙見たんじゃないかな。
まあ、カラオケでドンビキ歌合戦やったり、飲み過ぎてくだまいている姿ばかりがオレじゃないってことさ(笑)。
Commented by kurashiki-keiko at 2011-06-17 11:13
そうですか、その絵本見たかったです。
そのままその路線で行っていたら、今は一流の…
何かになっていらっしゃったはず、なのでしょうか。
いえちゃんと王子様になっていらっしゃるんですよね。・・・
Commented by yochy-1962 at 2011-06-17 22:44
kurashikiさま まあ、心の奥ふかーくには、まだまだその路線を守っているつもり(苦笑)。
そう信じ続けて、これからも生きて行きたいと思っているのですよ。
Commented by new-hamakujira at 2011-06-19 21:45
同じくアル中寸前の中年っす(笑)。
貴重ですばらしい経験じゃないですか。編集者の勲章ですよ。

ワタクシも青い志を持ち続けることは困難な歳になってしまいましたが、まだまだこれからと思っています。

それはさておき、たまには一杯やらない?
Commented by yochy-1962 at 2011-06-20 12:25
濱鯨さま 気持ちだけは前向きに、精進して行きたいと思っていますがね〜。もう折れそうです(苦笑)。
飲みですかあ。いいですね。でもしばらくはちょっと無理かも。