それは昨年末。
友人宅で行われた、忘年会を兼ねた鍋パーティーでのことでした。
このパーティーは、前回触れた、最近転職して「給料が高卒並みになってしまった」と言っている友人のマンションで行われたのでした。
ただこの日、私は先約があり、宴会には参加できませんでした。だからこの話は、新年会で何度も私を怒鳴りつけた友人から、後から聞いた話なのですが。
この友人宅で振る舞われる鍋は、いつも決まって「白菜と豚肉のミルフィーユ鍋」でした。
どうせ後でぐちゃぐちゃになってしまうのに(笑)、丁寧に白菜、豚肉、白菜、豚肉の層を作り、振る舞ってくれます。
豚肉と白菜の相性は抜群ですからね、なんの文句もありません。いつも美味しく美味しくいただいているのですが。
「今日はね、かにしゃぶにしたんだよー」
友人の声が弾みました。
「わっ、すごいねー、奮発したねー」
しかし、客はみんな、友人が手にする「カニ」に目が釘付けになりました。
「えっ……」
それは、どう見てもカニではなく、「カニかまぼこ」だったのでした。
「これがねズワイガニ、こっちがタラバガニ」
友人は何の悪びれもせず、カニかまぼこを指差して言うのでした。
「……」
この場に私がいたら、すかさず「何言ってるん。これはカニかまぼこやん!」とツッコミを入れていたでしょう。
いや、友人としたら、そのツッコミを待ってのボケだったに違いありません。
しかしその、私に怒りまくった心優しき友人は、その前に「給料が安くてね、高校の初任給くらいのお金しかもらえないの」という彼の話を真に受けていたのか、ついその「ボケ」に反応することが出来なかったのだそうです。
(これは……!
どう見てもカニではない。カニかまぼこだ。
まさか、本人、これがホントにカニだと思っているはずはない。
ふざけているのだろうか……。
ツッコんだ方がいいのだろうか……。
いや、いまはお金がないからこれで我慢して、という、彼なりの精一杯のメッセージかもしれない。
ここでツッコんだりしたら、もしかしたら彼を傷つけてしまうかもしれない。
自分にはそんなことはできない。自分はヨッチーのようにガサツな、無遠慮な人間ではないのだ。
友達だもの。
そう、これはカニしゃぶなんだ。
そうだそうだ……)
一瞬のうちにそんな思いを巡らせたというのです。
(ガサツで悪うござんしたね)
まあ、昨今のカニかまぼこは下手な本家のカニよりはずっと肉厚で、味もよかったりします。
だから、そういう鍋があったとしても、私なら大喜びでいただいたと思うのですがね。
で、結局友人は何のツッコミも出来ずにカニ(かまぼこ)しゃぶしゃぶをありがたくいただき、なんだか分からないモヤモヤを抱えつつ、その宴会は過ぎていったということなのです。
ということもあって、「カニ」「安月給」に関しては何も言ってはいけないと、固く心に誓った友人でございましたが、自宅の冷凍庫に素晴らしいズワイガニの足が鎮座していることをつい忘れたのかどうか分かりませんが、毒舌、邪悪、ガサツなこの私にカニが見つかり、烈火の如く私に怒りをぶちまけたというわけなのでした。
まあ、だったら冷凍庫にそんなものを入れておくな、って話ですがね。
その前に、私はその「カニしゃぶ事件」については一切話を聞いていなかったのですから、怒りをぶちまけられても困ってしまう話なのですがね。
でも、なんだか漫画みたいで笑ってしまうお話でした。
今度友人宅で宴会が行われる際には、「いくら」と言ってタピオカを、「松茸」と言ってエリンギを持っていってやろうと思っています。
……今度こそ袋叩きか。







