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から揚げお化けの恐怖

 いま、巷で話題、女性誌や子ども向け雑誌、経済情報誌までもが特集を組むという(ウソ)「から揚げお化け」についてはご存知でしょうか。

 から揚げお化けは、文字通りから揚げが大好きなお化けのことで、日没後、19時〜21時くらいの渋谷区、もしくは世田谷区の、人通りのない暗がりの道によく出没するという情報を得ています。

 普通お化けというものは、人気のないところにこっそり立って、そこを通りかかる人を驚かせたり、写ってはいけない写真にうっかり写って人々を恐怖のどん底に陥れるのがおもな仕事(?)ですが、から揚げお化けは、人通りのないところに出没するところは同じですが、できたら人に会いたくないというスタンスでいるのが特徴で、だから、うっかりから揚げお化けとすれ違ってしまったら最後、ものすごい威嚇した目で相手を睨み付け、その場から退散させてしまいます。
 しかし、イヌにはしつこく吠えられ、あるいは抱きつかれたりしてしまうという弱点ももっています。

 から揚げお化けは、小田急デパートの地下食品売り場で売っているジューシーフライドチキン、または京王線笹塚駅のショッピングアーケードにある「福のから」という店のから揚げ、またはローソンで売っている醤油味のから揚げがお気に入りです。
 しかし、同じローソンでも「からあげくん」については、あの人工肉っぽいたたずまいがから揚げお化けの琴線に触れず、あまり購入することはありません。同じ理由で、マクドナルドのチキンナゲットも、から揚げお化けの購入欲をそそるものではないようです。

 そして、から揚げお化けはケンタッキーフライドチキンもあまり好んでおりません。味についてはリスペクトに近いくらいの評価をしているのですが、「骨付き」であるというところがネックになって(そうでない商品もあるようですが)、そしてなかなかの高価格であるという理由もあって、つい購入をためらってしまうのです。
 骨付きのから揚げは、ひとつひとつがどうしても大ぶりになってしまい、食べる動作もそれに比例して大きくなってしまうため、歩きながらこっそりと食べるには不都合なのです。そして残った骨を平気で道端に捨てることができる、◯国人のようなふるまいは、さすがのから揚げお化けにもできないようです。

 そう、から揚げお化けがから揚げお化けである所以は、「歩きながら」から揚げを食す快感を覚えてしまったところにあるのです。
 いや、から揚げお化けは、最初から歩きながらから揚げを食べようと思って「福のから」の店頭に並んでいるのではありません。
 から揚げお化けは、仕事帰りに約1時間ほどのウォーキングを日課としています。毎日のことですし、歩くという単調な行動ですから、飽きがこないようにと、いろいろなルートを持っているのですが、そこに、関所のようにいろいろな「トライアルエリア」が用意されています。
 その最たるものが「大衆酒場」でして、気がつくとから揚げお化けは健康のため、ダイエットのためにウォーキングをしているのだぞということも忘れ、酒場のカウンターにひとり陣取り、「ホッピーと豚バラ串、ハラミ、塩で!」などと叫んでいることがあまりにも多過ぎるのです。
 こりゃいかんぞ、そうだ、ウォーキング途中に何か夕食のおかずを、あるいは家での酒のつまみを購入してしまえば、居酒屋に行かなくて済むのではないか、と思い、ウォーキング途中にあるから揚げ専門店や、コンビニに寄っているという事情があるのです。

 しかし、無事から揚げを購入したはいいものの、夜道を軽やかに、爽やかに、そして優雅にウォーキングしているつもりのから揚げお化けですが、実はお腹はグーグー、いま、この瞬間、ジャストナウ、から揚げを食べてしまいたくてたまらなくなっているのです。

 しかししかし、人目も憚らず、袋からから揚げをおもむろに取り出し、むしゃむしゃとから揚げにかぶりつくことができるほど、から揚げお化けには羞恥心が欠落しているわけではありません。
 ですから、隙を見て、ひとくちでパクッと口の中に入るサイズの、骨つきでないから揚げを頬張り、何事もなかったかのように、優雅に、微笑みすら浮かべているかのような表情で、から揚げを食すのです。とても鮮やかなのです。

 ただ、いくら人の目を盗んで……と言っても、肩がぶつかるくらい人でごった返した通りでは、すぐにから揚げお化けの正体がバレてしまいます。たたでさえ丸い顔が、から揚げでますます膨れ上がり、「あっ、あのおじさん、なんか変」とか遠慮のないガキから指差されたりでもしたら、たまったものではありません。
 だから、から揚げ購入後のから揚げお化けのウォーキングルートは、なるべくなるべく、人の通らない暗い道をチョイスせざるを得なくなります。
 しかし、なかなか人っ子一人歩かない道を探すのも、東京23区では簡単なことではありません。1人だけ前を歩いていたのが、やっと次の角で横に曲がってくれて、よし、やった、これでから揚げタイムが! と思い袋からから揚げを出した瞬間、さっき曲がった人が何を思ったのか引き返して来て、から揚げにパクついた瞬間、目と目が合ってしまったこともあるのです。
 そんなときは仕方ありません。「な、なんだよ。こっち見るなよ」という、ものすごい目つきで相手を威嚇し、睨みつけるしかありません。から揚げお化けに出会ってしまったときの恐怖は、ここにあるのです。
 さっきまで気取って歩いていたおっちゃんが、ちょっと目を離した瞬間に、茶色の肉片を頬張り、顔が1.5倍になっていた……そんな光景を見てしまったら、人々は声を上げたりはしないとしても、思わずツイッターで「おっさんが歩きながらから揚げを食べているなう」くらいのことをつぶやくに違いありません。それが昨今の「から揚げお化け」ブームとして、世間をにぎわしている、ということなのですね(一応念のため、そんなブームはありません)。

 しかしまあ、この、人の目を盗んで食べるから揚げの、背徳的な美味しさ! 庶民に与えられた至福のひととき! 
 すっかりクセになって、1個だけのつもりが2個、いいやもう1個だけ……と言っているうちに、家に着く前にから揚げ完食! ということも一度、二度ではありません。
 ご飯のおかずとして、定食屋などで食べるときはそれほど思わないのに、どうして歩きながら食べるから揚げはこんなに美味しいのか、これは大いに宣伝しなくてはいけないと、こうしてから揚げお化け、つまり私は、長々とブログに綴るのでありました。

 どうです? 夕食のおかずにと思って購入したから揚げを、帰り道、こっそりと頬張るときの快感を、あなたも味わってみませんか?
 これであなたもりっぱなから揚げお化け、です。
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by yochy-1962 | 2013-02-11 22:09 | グルメ | Trackback | Comments(2)
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Commented by ざき at 2013-02-12 07:36 x
語り口や題材がまるで民話のようですね!どっとはらい!
Commented by yochy-1962 at 2013-02-12 12:32
ざきさん 恐れ入谷の鬼子母神(^O^)。高田馬場で呑みませう。

by yochy-1962